大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和27年(う)3683号 判決 1953年3月25日

控訴人 被告人 清水幸太郎 外四名

弁護人 諏訪栄次郎 外二名

検察官 野中光治

主文

原判決を破棄する。

被告人清水幸太郎を懲役二年に、同関根義光、同井田光信を各懲役一年に、同小宮清を懲役一年六月に、同矢島三郎を懲役一年及び罰金二万円に処する。

被告人矢島三郎が右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人五名に対し、いずれも、この裁判が確定した日から被告人清水幸太郎については五年間、爾余の被告人らについては各四年間、右各懲役刑の執行を猶予する。

原審の訴訟費用は、全部被告人矢島三郎の負担とする。

理由

被告人清水幸太郎、同関根義光両名の弁護人諏訪栄次郎、被告人小宮清、同井田光信両名の弁護人紺藤信行、被告人矢島三郎の弁護人奥田三之助の各控訴趣意は、いずれも、末尾に添附した各別紙記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

諏訪弁護人の論旨第一点について。

記録を調査するに、原判決が、被告人清水幸太郎、同関根義光らに対して認定した犯罪事実の一部として、同人らに対する昭和二十七年四月二十五日附起訴状記載の公訴事実をそのまま引用していること、及び、電信法第三十七条違反の罪が成立するには、現に、電信若は電話による通信を障碍し又はこれを障碍すべき行為がなければならないこと、並びに、浦和電報電話局施設長から浦和市警察署長に宛てた昭和二十七年四月十日附上申書と題する書面の記載によれば、右被告人らが、同年同月九日に切断窃取した電線が予備線であつたことは、いずれも、所論のとおりであつて、所論は、右のような予備線については、通信の障碍ということはあり得ないことであるから、電信法第三十七条の罪は成立しない旨を主張するにより、案ずるに、電信法第三十七条には、「電信若ハ電話ニ依ル通信ヲ障碍シ又ハ障害ヲ生スヘキ行為ヲ為シタル者ハ七年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス」と規定してあつて、右にいわゆる電信若は電話による通信を障碍すべき行為とは、電信若しくは電話による通信を障碍する虞のある行為を指称するものであつて、これによつて現に通信障碍の結果を生じたことを必要としないものと解すべきところ、原判決が証拠によつて認定した事実は、その引用にかかる昭和二十七年四月二十五日附起訴状記載の公訴事実のとおり、「被告人等は共謀の上、昭和二十七年四月九日午後九時三十分頃、浦和電報電話局施設長橋本三男管理に係る浦和市上木崎地内、与野大門間三〇六号乃至三一〇号柱間国際電信線二、九耗硬銅線一、一七六米及び二、三耗鉄線五八八米を切断して窃取し、且つ電信に依る通信を障碍すべき行為をなしたものである。」というのであつて、原判決が右事実認定の証拠として挙げている浦和電報電話局施設長橋本三男作成名義の上申書と題する書面の記載によれば、原判決の認定にかかる右被害線路は、上福岡無線受信所において海外電波を受信し、これを有線(右線路)にて東京中央電信局に送る重要線路で、昭和二十六年まで使用していたところ、東京大宮間市外二〇〇対地下ケーブルが布設され、同年十月ごろ右の裸線路回線を二〇〇対地下ケーブルに収容切替してあるので、現在は予備線となつているが、右二〇〇対ケーブル線路が故障になつた場合は、直ちに前記予備線路に切り替えるべき重要予備線路となつており、定期的に回線試験や線路巡回も実施し、盗難の時は、直ちに復旧せねばならぬ重要線路であることが認められるのであるから、このような重要線路の電線を切断して窃取するときは、若し、前示地下ケーブル線路が故障になつた場合に、右電信による通信を障碍する虞のあることは、まことに明らかであるというべく、従つて、被告人らの右原判示所為は、前掲電信法第三十七条所定の電信による通信を障碍すべき行為をなした場合にあたるものと認めるのが相当である。而して、被告人清水幸太郎、同関根義光両名に対する原判決の判示事実は、右の点を含めて、すべて、その挙示する証拠によつてこれを肯認することができるから、原判決には、所論のような証拠に基かないで有罪事実を認定した違法があるものということはできない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 大塚今比古 判事 山田要治 判事 中野次雄)

弁護人諏訪栄次郎の控訴趣意

第一点原判決は、証拠に基ないで、事実を認定した違法があるから、破毀さるべきである。原判決は、被告人両名等に対する昭和二十七年四月二十五日附起訴状記載の事実を、そつくりそのまま有罪と認定したが、該事実中の電信法第三七条違反の点は、これを認めるに足る証拠がない。

電信法第三七条違反の罪が成立するには、現に通信を障害するか障害すべき所為がなければならないのである。それなのに、原判決援用の浦和電報電話局施設長から浦和市警察署長宛昭和二十七年四月十日附上申書の記載によれば、被告人等が窃取した電信線は、予備線であつて、現在使用に供されていなかつたことが明かである。されば、かかる予備線については、通信の障害ということはあり得ないことであつて、従て電信法第三七条の罪は成立しないものと思料する。

しかるに、慢然これを有罪に認定した原判決は右の点の違法があつて、破毀を免れないものである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例